SSブログ

歌詞のなかの抽象 [歌詞]

あまり心地のよくない記述をつづけた気がするので、
そろそろ本筋のエレファントカシマシの分析のおはなし。
たぶん、言っている人見たことないので、私が初の指摘だと思います。

それがタイトルに付けた「歌詞の抽象性」です。
わかりやすく言えば、物の名前に具体名が少ないと言うことです。

たとえば、歌詞のなかでも印象的な「花」。これ個別名称で登場するのは、「サクラ」と「バラ」だけです。あれだけ、花を歌いながら、具体的な花の名前が出るのは「サクラ」と「バラ」だけです。


つぎに、大好きな自動車(くるま)。これも「車」としてしか登場していないはず。【GT】を車種とすれば、曲名にはチラっと登場しているけど、どこにも「ポルシェ」が出てこない。

それから、食品。これ「お茶」と「コーヒー」と「めし」をのぞいて具体名が何一つ登場していないはず。「ハナウタ」を焼酎の商品と考えて、ようやく一個です。不思議ですよね、あれだけ楽曲をつくっていて、具体的な食品名が一個も出てこない。蕎麦やうどん、パスタ、せめて雑煮くらい出てきてもよいもの。おせち料理とか。

それから、意外なことに楽器やミュージシャンの名前も登場したことがないはず。 その代わりに文豪の名前が実名で登場する。永井荷風と(森)鴎外である。作品名としては、「山椒大夫」と『渋江抽齊』だけかな。【曙光】をニーチェの著作と考えれば、もう一つカウントは増えますが、それでも思ったほどではない。

それから、動物についてはどうだろう。いちばん登場回数が多いのは「ネコ」だと思う。案外にも犬は一度も登場していなかった気がする。それから、登場回数がダントツな「鳥」。これでも具体名は「スズメ」と「カラス」しか出ていないはず。「ハト」や「トンビ」も登場してよいはずなのに。

逆に、具体名が多いのは何か?

この問いにはすぐ答えが出る。地名である。「東京」「武蔵野」「首都高」(これ地名じゃないか)「日本」「アメリカ」あとは【石橋たたいて八十年】に出てくる地名。あと施設名ではあるが、下北沢にあるライブハウス「シェルター」も実名である。忘れちゃいけない「井の頭公園」もありました。あと「上野」もあった。意外なのは「セントラル・パーク」。

このように、名詞に関しては個別具体的な名前を使わないのが宮本浩次の作風である。これはそのように種別を特定できる名詞を使わないことによって、イメージを膨らませているという配慮も幾分あると思うが、その実は単に固有名詞や具体名にこだわっていない、というのが真実だろう。

たとえば、富士山はこだわりがあるので固有名で出てくるが、川は固有名称では出てこない。海も同じ。坂も同じ。…というように、こだわりのある富士山以外は全部「山」、川はこだわりがないので全部「川」にすぎない。鳥についても、「スズメ」と「カラス」は出たものの、基本的に全部まとめて「鳥」という呼称である。いちばんひどい扱いなのは、花で。「バラ」と「サクラ」以外は全部「花」である。しかも、「サクラ」はレコード会社の「桜」の歌という発注がなければ、きっと歌詞のなかで登場しなかったはずの名前だ(【上野の山】では「花見」としか歌われていない[註:この記述まちがい。正確には「上野の桜は八分咲き」で「桜」が登場している。たろいもさんの指摘を受けて訂正(2010/07/30)])。

そのあまりの抽象名の多さにかえって感心する。ほとんど神話レベルといってよいくらい、エレファントカシマシの歌詞には具体名が登場してこない。これは、ある意味では聞き手に引き寄せやすい内容になっていると言えるのだろうが、意図してやっているかといえば、違うような気がする。というのも、「シェルター」や「セントラル・パーク」、「浦島太郎」や「渋江抽齊」みたいに、突然に具体名を混ぜ込んでくるからである。だから、あえて外しているのではなく、基本的には具体名に関心がないというのが真実だと思う。関心があるのは、文豪とその作品、そして地名である。

とは言っても、作家や作品名も2~3曲しかない。地名もほとんどは「日本」「東京」であるから、そう特別なものではない。これは20~30曲の持ち歌ならたいしたことがないが、200曲を越える持ち歌で、こんなにも商品名も個別名称も出てこない歌詞を書いているのは、宮本浩次だけではないだろうか。どんな人でもだいたい固有名詞を使ってしまうものだ。
結論、エレカシの歌は神話的(むかし話的)なのである。

nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 2

たろいも

なるほどなぁと感心しました。確かに。うつらうつら、遁世など、20年も前の歌が未だ古びず、一定のリアリティーを持ち続けている(と私には感じられます)理由の一つだと思います。些末なことかもしれませんが、上野の山には桜が出てきます(笑)
by たろいも (2010-07-30 05:50) 

黒のシジフォス

> たろいもさん、ご指摘ありがとうございます。
たしかに、「桜」出てきました、凡ミスです。
お詫びして、訂正します。

しかし、大意には影響がないと思いますので、
部分訂正でご容赦下さい。

内容について共感いただけたようで、光栄です。
また、何か凡ミスあったら、どんどん言ってください。
内容についての批判・反論も歓迎ですので、
お気軽に立ち寄り、コメント残してください。
by 黒のシジフォス (2010-07-30 21:47) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。