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EMI期ファンの尽きない変身願望 [エレカシファン]

エレカシにとってEMI期とは混迷の時代である。それはバンド・マスターである宮本浩次が、自選作品集の副題に「胎動期」と名づけたことでもよくわかる。また、EMI中期(『俺の道』)以降の歌詞のなかで、「探している」という歌詞が頻繁に登場することでもよくわかる。

では、EMI期の作品のファンというのはどういった傾向のファンが多いのか?

それは、一概に「この音楽傾向のファンです」といいきれない、多様なファンの集まりだということができる。たとえばEMI初期のファンであれば、宮本のソロプロジェクトである『good morning』や『ライフ』のファンであり、バンドサウンドよりも楽曲志向、メジャー指向が高い傾向があるだろう。EMI中期のファンであれば、『俺の道』『扉』のように、私小説的な内容の歌詞を激しい音楽に乗せて歌い上げる、荒々しい作風のファンといえるだろう。EMI後期の『風』や『町を見下ろす丘』のファンということになれば、バンドの結束を強めたあとの完成度高い作品(『風』の後半をのぞく)を志向する、ウェルメイドを愛するファンということができるだろう。つまり、EMI所属期間の約10年間の間に、三回以上の大きな作風の転換があったことになる。これは同様の所属期間のあったエピック・ソニーと比べても、すさまじい変容としか呼べない。

EMI期の作品のファンというのは、作品ごとにその色合いに戸惑い、一喜一憂した経験を持っている。それは、エピック期のファンがキャニオン期の転換で感じたそれに近い驚きを、作品毎に経験したともいえる。それくらい、有為転変、EMI期のエレカシは不定形に変容したのである。そして、ファンはそれに寄り添って愛したことになる。

エピック期のファンも、キャニオン期のファンも、音楽性の違いはあれどもエレカシにあるひとつの音楽性を期待したという意味では共通している。しかし、EMI期のファンはその逆で、変容することを期待するファンであるのではないか、と私は考えている。福引きの回転器をまわして、各種等級の色玉を引くように、毎年リリースされるアルバムを、CDトレイに載せて初めて回すときの興奮を楽しみにしていたファンといえる。だから、アタリであってもハズレであっても、EMI期のファンにとっては、エレカシの変容をみることがエレカシファンの楽しみの極みとして感じたのである。

いちばん評価のつけにくいEMI期のファンについて、こう断言できるのは、私自身がまさにEMI期に同時進行でライブを見続けた一人のファンだからである。自分自身の経験を通じてよく理解されるのは、EMI期ファンの経験の贅沢さである。そして、各期のファンのなかでも最も業の深い欲求を持っているのは、EMI期を経験したファンである。EMI期のファンの業欲は、つまり変身願望である。つねにエレカシに変わり続けて欲しい、変身し続けて欲しいと願う、観客のエゴ。それはそう、いつもあたらしいトリックを期待し続ける推理小説のファンに似ているかもしれない。ひとつの見せ方、ひとつの表現で満足しきれない読者は、何度変化を見せられても、その都度の一瞬の満腹を得ると、また違う姿を望んで高いハードルを要求する。まさに、そんなとても贅沢なファンが、バンド史上でも一番苦しかったEMI期に生まれてしまった。

EMI期のファンの長所は、変化に対してはとても寛容で、一作品ごとの色合いの違いについてとやかく言うことはない。しかしそれは逆に短所ともなり、エピック期やキャニオン期のように、ある種の色に染まり続けると退屈して、何か激烈な変化が起こらないかと待望してしまう。

EMI時代は主に3つの期間に別れる。一つめが、宮本ソロプロジェクトの『good morning』『ライフ』。二つめが、バンドサウンド回帰の『DEAD OR ALIVE』から『扉』まで。三つめが、『風』『町を見下ろす丘』のエレカシ・バンド・サウンドのいちおうの完成型。

すでに述べたように、EMI期のファンは各作品ごとにまったく違う音楽性のファンとしてまとまっているので、EMI期のファンとして全体の傾向を述べることは非常に難しい。エピック期やキャニオン期のような、わかりやすい集団としての秩序はなく、そしてレコード会社移籍による作風の変化についても、おそらく忌避感なく受け止めるファン層である。ゆえに、EMI以前のキャリアについても、エピック期とキャニオン期の断絶を認めず、むしろその変容を楽しんで受け止めるファン層だと思って間違いない。

EMI期のファンがユニバーサル期になってとまどっているのは、逆に変容を終えて安定期に入っているエレカシの姿ではないだろうか。すでに3年以上になる蔦谷好位置との関係性。そして、ほとんどサブメンバーとなった昼海幹音と蔦谷好位置をふくむ6人編成のライブ演奏。これは1年ごとにまったく演奏スタイルや楽曲の音楽性が変わったEMI期からすれば、まるで足踏み状態に見えてしまう。しかも、宮本のご機嫌ぶりも、どこか一本調子のように感じて、多少不安定でもむちゃくちゃなライブが見たい、そう思ってしまう。


追伸

しばらく更新がなかったのは、ブログを書いてなかったのではなく、
つくった内容をうまくブログ用に編集できなかったからです。
HTML編集がうまくいったら、その内容も随時更新します。
昨日(12/22)はTHE BACK HORNのマニアック・ヘブンVol4に行ってきました。
山田将司が白シャツと黒ボトムで、宮本浩次そっくりのいでたち。
しかも、ギターを弾く仕草がそっくりで、あきらかに影響を感じとりました。

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kazy

こんばんは。「EMI期のファンは音楽性の変容に期待する傾向がある」云々の記事を拝見し、自らのエレカシ歴をふり返ってみました。

私自身、アルバム『扉』以降、エレカシから遠ざかっていました。ライブで聴いた『ガストロンジャー』の衝撃、『武蔵野』の美しい旋律を超えると思えるものが、感じられなくなったためです。せっかくのコレクションも手を触れさえしなくなったので、年明け早々売り払いました。(今となっては深く後悔!)

3月下旬に、CM「焼酎(はなうた)」「なっちゃん」や映画タイアップ曲ので宮本さんの声が懐かしくなり、『桜の花舞い上がる道を』を買いに走りました。『扉』リリースが04年3月なので、5年近くブランクがあったことに。最近、ブランク期間のアルバムを辿っています。耳に馴染み、また、咄嗟に鼻唄に出てくるのは『町を見下ろす丘』。

”『町を見下ろす丘』は、EMI期の完成型”というのを拝見して、すとんと落ちました。EMI初期の音楽性を超えてくれることを期待していたのに、初期から中期へと方向転換していったために、心が離れたというところでしょうか。混沌とした変容を続けていくエレカシにもう少しだけつき合っていたら、完成期の『町を見下ろす丘』に出会えていたというのに!

自分の世界に浸ってしまいましたが、最後まで目を通していただきありがとうございました。こうやってエレカシ歴をふり返る楽しみが得られるので、黒のジンフさんのブログはとても有り難い存在です。

by kazy (2009-12-23 23:11) 

黒のシジフォス

kazy さん、コメントありがとうございます。

kazy さんはEMI中期の変容に戸惑ってしまったファンなのですね。CANYON時代を愛していた人ならば、それもムベなるかな、です。

EMI所属時代は、はじめて自分の音楽的方向性に迷ったのではないでしょうか。とくに、『扉』のころは、真剣に「死に場所」を探しているような、鬼気迫るライブ風景でした。しかし、『風』の制作時期から突き抜けたんだと思います。【友達がいるのさ】のあの温かさは、きっと彷徨のはてに帰るべき場所(バンド)を見つけた喜びにあふれています。

『町を見下ろす丘』は自分探しのトンネルを抜けて、たどり着いた景色が描かれています。何しろ、あの傍若無人な宮本浩次が、「出会った人々に感謝して」いるんですからね。

『町を見下ろす丘』のもうひとつの感動は、プロデューサーである佐久間正英との再会です。CANYON時代は、佐久間アレンジに染められていたエレカシが、今度は自分たちの色を認めさせています。佐久間プロデュースでありながら、CANYON時代のサウンドにならなかったのは、エレカシが自分たちのサウンドを佐久間さんに認めさせたからです。つまり、見返したんですね。

発売当初は人気がなかった『町を見下ろす丘』が、年が経つほど売れ行きがあがって、売り上げ順位(オリコンなど)があがっていることに、喜びを覚えています。【Flyer】で歌われる丘は、つまり『町を見下ろす丘』のことですから。
by 黒のシジフォス (2009-12-28 00:19) 

kazy

黒のシジフォスさん、こんばんは。

EMI期エレカシに関する、レクチャーありがとうございました。(前回、お名前を間違えて入力しており失礼いたしました。)
♪「光射す丘の上で溢れる熱き涙・・・・」、まさか、アルバム『町を見下ろす丘』が総括されて、『Starting Over』に繋がって
いようとは!移籍しても、エレカシのエレカシたる神髄は貫き通されていたのですね。そのことを知って【Flyer】を聴くと、さ
らに味わい深いです。勉強熱心なファンの方々は、 【Flyer】を聴いた瞬間にハッと気づかれるのだから、頭が下がります。





by kazy (2009-12-29 22:25) 

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