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2010年日比谷野音公演の感想(その2) [ライブ]

「その2」では、公演本編の中盤から終盤までの9曲に関するレポートです。
その9曲に加えて、【月夜の散歩】の前にしゃべったMCを丁寧に書き起こした。
このMCが重要なのは、作風の変化が誰の発案であるのか、
そして、「売り上げ」がエレカシにとってどういうものかを知る手がかりとなるからである。
本人の口から、なぜEPICの作風からCANYONの作風に変わったのかが説明された、
貴重なMCであり、そしてそれはUNIVERSAL期の作風にも適用されていた。

本編中盤は、序盤とは違い、
勢いのあるライブ定番曲とバラードを混ぜてきたパートである。
序盤でも少し述べたが、スタミナ切れが見えて、少なからずパワーダウンが見えた。
しかし、真剣さや本気度は増していくので、鬼気迫る「懸命さ」はむしろ高まる。
そう、『俺の道』や『扉』の頃はこのようなライブだった。

新曲も披露されて、アルバム・リリースへの期待が高まる。


 2010年日比谷野音公演の感想  その1 / その2 / その3



パワー・イン・ザ・ワールド
生命賛歌
長めのMC
月夜の散歩
武蔵野
幸せよ、この指にとまれ
友達がいるのさ
赤き空よ!
歩く男(
月の夜

10.パワー・イン・ザ・ワールド

「また明日も明後日も太陽が昇るんだよなあ」ポツリ言って、胸騒ぎのリフ【パワー・イン・ザ・ワールド】へ。以前の野音では打込みトラックをベースにした、ファンクな【パワー・イン・ザ・ワールド】だったが、今回はギター・サウンドをベースにしたブルース・ロックなアレンジ。しかし、ここで2度目のしどろもどろが入る。「ななな」になってしまった箇所があり、もったいなかった。私の立見のポジショニングなのか、成ちゃんベースが良く聞こえて、この曲でもベースラインを堪能した。呼吸が苦しいのか、息切れの激しいところがあり、やはり年齢のせいか夏の野音は激しい曲と相性がよくないと思った。まだ中盤くらいなのだが、この辺でややスタミナ問題が顔を出していた。印象的なサビ「何度目の太陽だぁ~」の「ぁ~」が「太陽」「月」ともになかったので、すぐにわかった。アルバム制作中のこともあり喫煙量が増えているのかも知れない。調子のいい時の【パワー・イン・ザ・ワールド】はあんなものじゃない。

11.生命賛歌

「OKトミ」と言ったから、まさか例のあの曲かと思いきや、「テケテケ」リフから【生命賛歌】へ。イントロがドラムを強調したパワフル・アレンジになっている。ややバテ気味でよれながらの歌唱なのだが、この歌の場合はよれたほうが逆に凄みがますところがある。そこがストレートな【パワー・イン・ザ・ワールド】とは違い、魅力となっていた。やはり【生命賛歌】は夏うたであり、イメージがピッタリ重なるので多少の息切れも、楽曲のポテンシャルを下げないのだろう。「お前でっけえな」とか「化けものと決まった」の歌詞で客席を指さし、吉見百穴の遺跡を客席に重ねているようだった。

長めのMC

スタッフがアコースティック・ギターを持ってきて、宮本が持ち替える。そして、本日いちばんの名MCがはじまる。どうして、ポピュラー・ソング風の楽曲を作り始めたかという動機と、売り上げが上がったことに対する喜びである。興味深い内容なので、書き起こしてみよう。(こういうことが出来るのは、中継放送がある恩恵である)

「最近になってようやく一生懸命やれば…(みんなに届くと、言いたかったらしいが言い淀む)。いや、僕らが言っても説得力がないんですけど。一生懸命って言ってもいろいろあるんですけど。まっ、その、昔あの一生懸命やっぱりやってて、闇雲に30歳くらいの頃ですよ。もうずいぶん前になりますけど、大人なんですけどもちろん。一生懸命、曲でも…、やっぱりデビューしてからは10年くらい経つわけですよ、30くらいで。でも契約切れたりして…、最近、友達って言っていいんだろうか?蔦谷好位置、あとこういう昼海くんとか、まっ、そういう人たちとやってて。で売れたらうれしかったですよね。10年前にですね。で、一生懸命プリンスのビデオとか見て、何だかわからないけどプリンスなんだけど。あの髪の毛伸ばしたり急にして、それまで床屋さんで刈上げてもらったりしてたんですけど。それが男だろうと。ロックだから髪の毛長いとか。で、一生懸命その。あの話長いですか?長そうだね。(観客の笑い、と「大丈夫」という声)「大丈夫」って、じゃあもう話さねえぞ、この野郎。まっいいか、それでその言ってることが半分しかわからねえ。ま、1対1だと得意なんだけどね。1対3000になっちゃうと。で、何を言おうとしたかというと、色んな歌を作ろうと思った時があって、だっていっぱい思っているわけだから、【ファイティングマン】とか【奴隷天国】とかいつも思っている訳じゃないし、それで一生懸命【今宵の月のように】もそうだし。振り返って、野音だからあえて古い歌をうたう前にあえてしゃべろうと思っていたわけじゃないですけど、休憩かたがたしゃべっていますけど。」(宮本・談できるだけ書き起こし)

「大丈夫」と言われてて、憤然とするところが宮本らしい。あれは意味なく怒ったのではなく、上位の立場から許可をするような響きのある「大丈夫」が使われたので、「お前に許可を受けるような話じゃないだろ」という意味で声を荒げたのである。そもそも、宮本の問いかけ調のMCのほとんどは自己完結しており、ほんとうに観客と対話する場合でも、その表情から応えを読み取るので、声を上げる必要さえない。相手の気持ちを読むのが上手いのである。だから、馬鹿にしたり、軽んじられた時の憤激は尋常ではない。


12.月夜の散歩

「いろいろ思い出があって、その時の歌です。東京にもいろいろ素敵な散歩する場所があります」と説明して、ギターを弾き始める【月夜の散歩】。ライブで披露されるのはかなり久しぶり。直近を探ると5~6年前になりそうな気がする。そもそも、少し以前にはあった「弾き語り」コーナーがなくなって久しいので、少し後にやる【月の夜】などのアコギ・バラードが聞けなくなってしまっていた。今年はそれが復活したので、女性ファンはさぞや喜んだことだろう。場内にはトンボやらコウモリやら、甲虫やらさまざま生き物が飛び交う様子が見られ、しまいには上空をヘリが横切っていった。まだ暮れきっていなかったので、「夜は更けていく」感じはなかった。曇っていたので、「月夜」とも呼びにくい状態ではあるのだが、しんみりした優しい気持ちは十二分に伝わってきた。『エレカシ青春セレクション』に収録されたアレンジで、佐久間正英のキーボードを蔦谷好位置が再現して、さりげないバッキングをギターの背後に入れていた。

13.武蔵野

またしてもトミのドラムが鳴る。マーチング風ドラム。それにしてもトミはマーチング・ドラムのような叩き方が得意だ。もしかしたら、ニューオリンズ風のガンボなアレンジをすると、トミのドラムがもっと活きるのかな、などと思った。「そうさ、野音だってそうさ」の一言から【武蔵野】へ。宮本さん、そこは「日比谷じゃないの」と心のなかでポツリ。バラードで休んだからだろうか、なんとミヤジの高音が復活して、擦れ声にならなかった(要は、力みの問題もあるんだよな。力むと声帯が締まるから高音が出なくなるけど、身体の力を抜けば、ふっと出るようになるという典型を見た気がする)。つまり、歌い方を変えれば、「出ない」って言われている高音が出るようになるんじゃないかと思った。

世評じゃ【月夜の散歩】がよく賞められてるが、私はこの日のなかでは【武蔵野】がすばらしかったと思っている。今年の日比谷野音のナンバー1バラード。この曲でも成ちゃんのベースがよく響いていた、ベースのボリュームが高かったのかな。良かった。ご存知だろうか、名曲【武蔵野】の録音盤ではリード・ギターの石君以外は、みんな宮本浩次の楽器演奏なのである。つまりバンド演奏は生のライブでしか聴けないわけだが(ライブ盤を除く)、グルーブのある生演奏のほうが断然よい。『愛と夢』から『ライフ』までの曲は、CDよりも生演奏のほうが心おどる。宮本の後ろで鳴る音は、やはり石森・冨永・高緑の3人の奏でる音でないといけない。

14.幸せよ、この指にとまれ

「現状、いちばん新しい新曲聞いてくれ」といって、【幸せよ、この指にとまれ】。6人編成で録音された曲とあって、アレンジがしっかりしていて、ピタリとはまる。すべてのキャリアを抱えて、それを詰め込んだ作風は、揺らぎがない。今の気持ち、今の歌い方に合っているのだろう、声に疲労はあるはずなのに、苦しいところも、綱渡りしつつ乗り切る。エンディングは録音盤とは別の「この胸に咲け~」バージョン。この終わり方は1月9日の渋公で披露されたものである。

ここでまたMC。「今日もオン・キーボード&コーラス、その他いろんな音、頼りになる男、蔦谷好位置」。「この方が、オン・ベース、高緑成治です。この男も頼りになる。ダンディにキマってます。今日は風通しのいい帽子かぶってます」(成ちゃん帽子をとってお辞儀する)。「オン・ドラムス、冨永義之、トミ。最高です。今日は絶好調。」「見てくれ、相棒です、石森敏行。石君。表情一つで何考えているかわかります、ほとんど芸の域に入ってます、私は」。「何て言ったらいいんでしょう、昼海幹音、ミッキーです。今日もこころの優しい繊細な、でも尖ったところを持ってるすごいギタリストです。ミッキーです」。「それから俺が総合司会の宮本です。イエー、エビバディ今日は『エレファントカシマシS』、6人でお届けしてます」。

15.友達がいるのさ

「次の曲行こうか、おいっ」。「おいっ」と言えばこの曲【友達がいるのさ】。メンバー紹介の後にこの曲が来る意味は深い。「あいつら」「友達」をメンバーと蔦屋・昼海の両人に向かって歌っているのだろう。もちろん、観客たちを同志(友達)に見立てていることもあるが、第一義はメンバー愛である。各楽器が1人ずつ加わってくるオープニングにしびれる。観衆のハイライトはこの曲にあった気がする。演奏や歌の完成度は初披露の時のほうがよかったが、この日いちばんのバンドの結束が現れていて心温かくなる曲であったからだ。【俺たちの明日】がセットリストになかったので、あの曲の持っている結束の分も、この歌に注ぎ込まれている気がした。「東京中の電気を消して夜空を見上げてえな」。なんと浪漫にあふれた呟き。この曲もイントロこそギターが主役だったが、盛り上がる後半パートでは、ダンディ・ベースが格好良く聞こえていた。今年の野音は高緑成治が輝いていた。「ベース、ベースっ」と宮本の発破もかかり、何度も注目が集まる。

16.赤き空よ!

七月の中旬はまだ日も長く、暮れる夕焼けがやや残るなか、カウントから【赤き空よ!】。イントロがないので、カウントを入れないとタイミングが合わないのだろう(ピストン西沢に、「ラジオで流しにくいからイントロのある曲作ってくれ」、と言わしめた1曲)。この曲も制作が近いこともあって、今の気持ちにマッチしているのだろう、とても心地よさそうに素直な気持ちで歌唱する。喉が苦しそうな場面もあるにはあったが、歌詞のひとつひとつを噛みしめるように、大切に歌う。何度も言うようだが、今年の野音は演奏・歌唱ともに万全の出来ではなかったが、それを補うように心意気のほうを強く感じた。演奏がずれることだってあるし、歌詞が飛ぶこともある、喉が嗄れることもある。けれど、その時はそこを埋める何かを心からひっぱり出せばいい。そんなパフォーマンスである。【赤き空よ!】では、「されどルールないこの空の下で」の後、「俺」を「俺たち」に替え客席を指さしながら歌った。

17.歩く男

「じゃあ、先だってレコーディングした新曲をやります」と言うと。場内から拍手が湧き起こる。ここでも、何度目かの「ワン・ツー、ワン・ツー・サン・はいっ」。おおっ、イントロがある。楽曲の印象であるがBEATLESの【Tax man】っぽいと瞬間的に思ってしまった。イントロのギターがシタールめいてからである。「満ち足りているのかい? 満ち足りているのかい?」と問いかけからはじまる、<ご存知エレファントカシマシ>の作風である。曲調はまったく違うのだが、内容は【道】とそんなに変わらない。ギターのリフが所々に挿入され、アメリカ西海岸の王道ロックを地でいく楽曲に仕上がっている印象だ。セリフ詞の直前のギター・リフがフィンガー5の【恋のダイヤル6700】の「リンリンリリン リンリンリリンリン リンリンリリン リンリリリリン」に酷似していた。今回かなりフューチャーされていた蔦谷好位置のコーラスであるが、この曲のコーラスも正直成功していたとは言えない。後ろでゴニョゴニョ何か言ってる。というくらいの印象で、はっきり聞き取れなかった。前で魅力的なボーカルが歌っているのだから、生中な歌唱力では埋もれてしまうのはわかるのだが、蔦谷さん滑舌悪いのかな、言葉の粒が揃ってないから石君のコーラスよりも聞き取りづらかった。【ハナウタ】や【コール アンド レスポンス】でのコーラスは、全部「アー」だったから気にならなかったけど、今回はちゃんと歌詞を歌っていたので気になった。蔦谷コーラスは聞き取りづらい。ボーカル宮本の歌を邪魔するから、歌詞のあるコーラスはやめたほうがいい。私はそう感じた。ほかの大勢のエレカシ・ファンの人はどうだろう? 曲の後半が何かの曲に似ているなと思ったら、【sweet memory】だということに気がついた。あっちは車で、こっちは徒歩だが。(音源ある人は聞いて見て欲しい。自分で「鋭い」って思った)

それはさておき。新曲の中で「歩く速度じゃ迷子の生活」「歩く速度じゃ迷子の子猫さ」という、「歩く」がやたら強調されるな、と思っていたら曲終わりに「【歩く男】でした」とポツリ。個人的にこの日いちばんの爆弾発言。【男】シリーズ最新作の発表におどろく。タイトルもそうだし、曲調が今までの【男】シリーズの中では異色だったからである。ちなみに世間的に言えば、「歩く男」という作品はジャコメッティの塑像である。結局、新曲発表にも湧いたのだが、タイトル発表のほうがさらに驚きだった。シングル切らないのかな? 

ちなみに【男】シリーズでシングルになっているのは、意外にも【浮雲男】と【無事なる男】の2曲だけなのである。7年ぶりの【男】シリーズが電撃発表されたライブとして、私のなかに記憶されるだろう。ちなみ、前作の【季節はずれの男】を聞いたのは、新宿リキッドルームの対バン・イベントで、まだ仮歌だんかいの時である。あちらのタイトルが【歩く男】でもおかしくなかったな、と思ったりもする。

18.月の夜

「デビューしたての頃、昼間からやることがなくて、それこそ丸の内とかを歩いていて。働いている人とかがいるのが嫌で、今は違いますよ。でもまあ、若い時にはそういう時があんだ、いい意味で。それで夜になると月が見えて、無理やり感動して、大して感動してないんだけど、作った曲です。【月の夜】という曲です。聞いてください」。

えっ、【月の夜】創作のエピソードが変っていることに驚いた。以前、たしか2005年の公演だったか、河口湖スタジオに籠もってアルバム制作をしていた時に、みんなは眠ってしまってひとり起きている晩にできた曲ですと言っていたはずだ。河口湖の月なのか、東京の月なのか、はっきりして欲しい。…というよりも、だいぶエピソードが違う。もしかしたら、曲は河口湖でできたけれど、歌詞の埋まらない部分が東京で出来たのかもしれない。それなら、納得がゆく。曲先行の作家である宮本浩次のこと、いきなり全部歌詞が付いていたとは思えないからである。

【月の夜】はいつもの静謐な美しい歌唱ではなく、かき鳴らす、乱暴なイメージのものとなっていた。そういうなれば、【化ケモノ青年】チックな「酒もってこい」のイメージである。「俺をあざ笑う人の働く」をより強調したことも、おそらくそのことに関係があるだろう。ここでも高音は思いのほか伸びていた。結局の所、宮本の高音つぶれは力みによる声帯の狭窄ではないかと、私は睨んでいる。

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コメント 2

hotaruika

石くんさんの紹介のときに、「ゲイの域」ってすごいこと言うなぁと思っていましたら「芸の域」でしたか! 聞き違えた自分が今になって恥ずかしいーーーーー!!

普請虫さんの感想を読んで思い出すことと、新たに知ることとがあり、二重に野音が楽しめました☆
by hotaruika (2010-07-26 21:01) 

黒のシジフォス

hotaruikaさん、ご愛顧感謝いたします。
あれは「石くんのことなら俺に訊け!」という愛情表現。
「芸の域です、私は」の「私は」が味噌です。

でも、最近は遠慮を覚えたのかも。
MTRを覚えて、自分自身で宅録をするようになったと、
どこかのラジオ出演で発言していたはずなので。
新婚家庭に出向いて、石くんをこき使うのは、
やはり相棒とはいえ流石に気が引けてきたのでしょう。
大人の分別。
「ゲイの領域」というのは昨年の【ガストロンジャー】のパフォーマンスのことですね。
by 黒のシジフォス (2010-07-27 00:29) 

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