SSブログ

アルバム『扉』 [アルバム]

2004.03.31


扉

『扉』
BFCA-75011 ¥3,059(tax in.)

プロデュース:宮本浩次
Co-プロデュース:熊谷昭(Key Crew)

1. 歴史
2. 化ケモノ青年
3. 地元の朝
4. 生きている証
5. 一万回目の旅のはじまり
6. ディンドン
7. 必ずつかまえろ
8. 星くずの中のジパング
9. イージー
10. 傷だらけの夜明け
11. パワー・イン・ザ・ワールド


1 歴史

アルバム『扉』は、虹色の変化を持ったアルバムである。といっても、エレファントカシマシの歌詞楽曲の一人柱である宮本浩次のつくるものであるから、宮本浩次というアーティストの色には強く染まっている。しかし、これが今までにはない境地の作品であるとともに、作品制作にかける葛藤が静謐さの中に収められていくという、凝縮がある。【歴史】がまず素晴らしい。というのも、渋谷陽一も指摘しているように、歌詞全体が散文(非韻文かつ平常文)であるにもかかわらず、見事にメロディアスな曲調に似つかわしく、心地よく強く歌われているからだ。また、内容が凄い。森鴎外という文人の人生を歌い、それを日本人の生きざまひいては自分の生きざまに重ねていく。その連想が、やや飛躍はあるにせよ、まさに聞き手に人生(生きざま)と日本人としての歴史とをつきつけてくるのだ。それにしても、「歴史 SONG」というサビは直裁だ。客観的に見れば、いささか滑稽さもぬぐえないが、かえってそれが聞き手を高揚させる。宮本自身はもっと壮大な歌詞になるはずだったと、当時の関心のひとつだった鴎外のために楽曲を使用してしまったことを、苦笑ながら悔しく思っているらしい。生まれずに流れた、もうひとつの【歴史】も聞いてみたいものである。

2 化ケモノ青年

【化ケモノ青年】はただただ勢いである。本人も言っているように、曲のイメージにしたがって書かれたこの曲の歌詞は、内容の一貫性よりも、酒を飲んで月を見て人生を思い、ときに理不尽な要求をふりまわすこの国の男、その男たちが青年期に誰でも輝いていたことを歌っている。宮本が思い描いているのは、滝沢馬琴や葛飾北斎、森鴎外や夏目漱石、などの文人たちの青年期であるわけだが、狂言回しとして曲の前半で行われる会話調で描かれる光景を手がかりに、その青年期の葛藤を美しきものとして歌っている。もちろん家父長制度を称揚しているわけではない。酒をのんでくだを巻く父が、その刹那に思い浮かべているかつての力に満ちた青春時代を、ムネに留めよとそういっているに過ぎない。

 
3 地元の朝

【地元の朝】はドキュメンタリーのように、赤羽の実家に帰省する宮本浩次の私小説的独白につきている。これほどまでに、自分自身の私生活と内心をオブラートにくるむことなく、誠実に歌ったうたが日本にどれだけあるだろう。静謐であり、しかし年を重ねても親に向かえば一人の子供に戻らざるをえず、されどやはり死を前にした親とかつての親の年に近づく自分とを意識する葛藤は、沈鬱である。その沈鬱さが最後半の「心の虹」によって解消される。「できるはず できるのさ」という独白が、内省を希望に変える。

4 生きている証

【地元の朝】と一対になっているのが【生きている証】である。この歌は自分にないものを求める葛藤を「生きている証」と捉え、またそれを乗り越えてゆけと、静かに語りかける。「強い思いだけが生きている証」なのだ。

5 一万回目の旅のはじまり

表現者・宮本浩次の37歳の孤独。それが見事に表現されたのが【一万回目の旅のはじまり】である。この歌はアルバム『扉』の中で明確な映像と物語をもった唯一の曲である。すがるもの(神)を探しあぐねた主人公・ぼくが、海にのぞむ丘にのぼり、そして灰色の海に飛び込んで終わる。泳げないはずのぼくが泳ぎだすラストが感動的に響く。勢いのある曲調とあいまって、ぼくの物語が映画のように聞くものに入り込んでくる。

6 ディンドン

印象のつかみににくい曲。今までのエレカシにはなかった楽曲が【ディンドン】である。宮本の心象風景なのか、アメリカの世界支配の戯画化なのか、それとも日本人の生活ぶりをテレビ好きの国民性にからめて歌っているのか、判然としない。プロモーションをかねたインタビュー記事を読んだが、この曲と「星くずのジパング」だけは、解説されていないのだ。だから正体不明である。

7 必ずつかまえろ

リフレインが効果的でかつ言葉の言いかえが劇的なラストを導く1曲が、【必ずつかまえろ】である。この曲はかなり皮肉たっぷりに、ダークな響きの歌声の中で展開されている。すなわち見つけるときも一瞬の幸福、醒めるときも一瞬、その一瞬一瞬に、得るものと失うものがあるという悟り。ラストの目覚めは幸運なものであるのか、否か?

8 星くずの中のジパング

【星くずの中のジパング】。この曲ばかりは何をテーマにしているのか、不明。インタビューを読む限りでは、最後までヒーロー(正義の味方)を貫きたいという、その意思を歴史(星の中に浮かぶ幻の日本)に向かって誓う宮本浩次ということなのだろう。夕暮れに心沈むのではなく、心新たにしようという、そういうことなのかな?

9   イージー

【イージー】。この曲もサビが不思議である。「結論 結論」というリフレイン、これをサビにした歌謡がかつて存在しただろうか?そして、「真冬の雲」と「真夏の空気」から心地よさを探しに旅立つ歌であるが、なぜか「結論」は「もっと もっと あなたを知りたい」なのである。この歌はつまるところラブソングなのである。自分の好きな風景と景色を巡り、男と女のイメージを巡り、死と生の紙一重にたどり着き、思う相手を知りたいと思うところに着地する。「死は今もここに共存している」これが結論。

10  傷だらけの夜明け

美しいバラード。宮本浩次という類い希な情緒歌人がつむぎだす夜明けの歌。しかしこの静かな歌の芯は、タイトルでもある【傷だらけの夜明け】、すなわち戦い尽くした後の朝である。つまり晩年にたどりつくそこをうたった歌なのである。だから朝はキレイであり、しかし自分自身は傷だらけなボロボロの身を抱えているはずなのだ。戦い尽くした朝を迎えようぜ、そういう決意なのではないか。この決意はラスト・ソング【パワー・イン・ザ・ワールド】にも共通してゆく。

11  パワー・イン・ザ・ワールド

前作『俺の道』を継承した唯一つの曲が【パワー・イン・ザ・ワールド】である。ガサガサでザラザラで、がなり声で叫ばれる戦いの歌。自分に、そして世間に、もちろん歴史の流れに対しても、宮本浩次の飽きたらない探求は続く。すなわち克己である。己を超える。もっと先へ、もっと上へ、全身が旅の中で力を失うまで。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。