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エレファントカシマシ作品に想を得た小説 [二次創作]

蔵出し企画のひとつ。エレカシ作品を題材とした二次創作。
その幾つめかのいちばん難しい部類のものを出してみようかと思う。

その昔、バブル経済華やかなりし頃、音楽雑誌に『月刊カドカワ』という不思議な雑誌があった。
音楽業界のことを扱い、ミュージシャンのインタビューや作品紹介などをやりながら、
ミュージシャンにエッセイや小説や詩作をやらせて、ひとつの月刊誌としてまとめていたのだ。
現在これに似た雑誌に『papyrus』(幻冬舎)があるが、『月刊カドカワ』はもう少し違う印象だった。
その『月刊カドカワ』がよく掲載していた企画に、特集するミュージシャンの作品を小説にするというものがあった。
私がよく覚えているのは、『博士の愛した数式』で人気になった小川洋子が、
まだそれほど著名にならないころに、佐野元春の作品に想を得てかいた短編集である。
「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」とか「情けない週末」とかではなかったかと思う。

エレファントカシマシの作品に想を得て小説化するというのは、かなり難しい。
というのは、エレカシ作品が作者宮本浩次の私小説の側面を色濃く帯びているからである。
しかし、これをそのまま引用して広げるような創り方をすれば、
それは
歌詞の世界観を意識しながらも、
宮本浩次の作品とはまったく関係のないフィクションにならなければ、意味がないと思って作ってみた。
数作を試作したなかでもっともマシにできた「FLYER」を出してみようと思う。
感想などありましたらお寄せいただきたい。参考にして次の創作の肥やしとさせていただく。
ちなみに、現在のところ試書きしたのは、【FLYER】をふくめ3篇。
ほかに【かけだす男】【so many people】がある。


     FLYER


 お前は覚えているだろうか。学校をサボって登ったあの丘を。俺たちはあの丘で夢を語り、現実に失望し、失恋に涙し、お互いのぶざまな失敗を笑い合った。お前の口癖は、「いつかでっかいこと成し遂げてやる」、俺の口癖は「ふつうじゃねえことをやり遂げてやる」。
 俺たちの学校は、偏差値《中クラス》のパッとしない高校だった。俺はそこではじめてお前に出会った。二人は益体もない授業に倦んで、授業を抜け出しては学校の裏山に登って夢の話をした。

 郊外の普通課高校である俺たちの学校は、ごくごく「ふつう」の奴らが集まるつまらない学校だと言われていた。最寄り駅の駅前で、俺たちの学校の男たちが別の学校の女生徒をナンパすると、「ごめんなさい、ふつうすぎてつまんない」とよく断られるのだった。
 俺はその「ふつう」が大嫌いだった。それをぶっ壊して「ふつう」じゃないことを成し遂げたかった。そのため、自分の通う学校の「ふつう」を壊そうと必死だった。ただ勉強も運動もまったく《中》の《中》で、「ふつう」の学校の「ふつう」ランクという、まさに目も当てられないような皮肉な状態だった。そして俺は「ふつう」の高校で「ミスターふつう」という不本意な渾名をつけられた。

 俺は俺なりのやり方で、「ふつう」の転覆を考えていた。休日の夜に、人気のない学校に忍び込んで、体育館の窓という窓を開けてまわったことがある。「ふつう」なら校舎のガラスや体育館の窓は壊してまわるものだろうが、俺は「ふつう」と違うから、窓ガラスを割るなんてもったいないことはしなかった。最近じゃ学校の校舎の窓は泥棒よけのセキュリティが効いているから、休日の窓を開けると、警備会社に通報されてしまう。だから、俺は「ふつう」の頭をフル回転して、通報装置のない体育館窓を狙ったのだ。
 ガラス窓をすべて開け放つことには、閉鎖的な「ふつう」の学校生活の窓を開きたいというメッセージも込めてあったのだが、そんなこととは気づかれもせず、単純に閉め忘れてと思われて、戸締まり担当の部活が怒られて終った。
 次に、理科準備室の備品の人体標本を、バラバラに職員室に撒いたこともあるが、前日に掃除当番だった班員すべてが洗われて、犯人の俺はあっけななく捕まって、「しようもない悪戯(わるふざけ)をするな」と、「ふつう」に叱られた。

 お前と会ったのは、そんなちっぽけな「ふつう」への反抗心もおれかけた高校三年の春だった。進学コースの「ふつう」コースで俺がつまらなそうにしていると、お前が声をかけてきた。「おい、ミスターふつう。この間のやつはけっこう面白かったぞ」。そして「ちょっとつきあえ」と言って、学校の裏山に登ったのだ。
 お前はジュースのブリック・パックを放ってよこして、「お互い自分のふつうっぷりには苦労するな」と言った。そう、その頃のお前の渾名は「ミスターふつうパートII」だった。
 お前は考古学者になって、シュリーマンのようにでかい遺跡を掘りあてて歴史に残ってやると野望を語った。そして、その手始めにこの裏山から恐竜の化石を掘りあててやるから見ていろと、冗談交じりに言って笑った。一方の俺はと言えば、そんな具体的な夢や理想もなく、ぐずぐずひたすら小学生レベルの「ふつう」な抗いを続ける「ミスターふつう」だった。
 そんな俺にお前はこう言ってくれた。「お前の志、俺にはわかるよ」。「お前にはアイデアが溢れているから、そのアイデアで勝負すればいいさ。きっと世間を見返す時がくるさ」。

 俺たちは高校を卒業して別々の大学に進んだ。そして大学卒業後に、《中》くらいの企業に入った俺は、企画推進部に配属を希望し採用された。お前はといえば、《中》くらいの偏差値の大学の文学部史学科で准教授になって、武家屋敷の便所跡を見つけた。まだ、大きな企画の《中》くらいのパートしかまかされていない俺は、一歩先を進む「パートII」に悔しさを覚えながら、頼もしく思っている。あの丘で交わした夢の勝負は、今のところお前が一歩リードしている。


 お前は覚えているだろうか。あの丘の約束を。どちらかが夢を成し遂げたときは、またあの場所で、掌におさまるブリックパックのジュースを持って、山の端に落ちる夕陽を見ながらまた笑い会おう。地方の国立大学に入学するお前と別れるその最後の日に、俺がお前にそう言うと、お前は男泣きに泣いて俺を困らせた。お前はシャツの裾で涙顔を拭いて、「おう」と一言いって、それから黙った。正直言えば、あの時泣いていたのは、お前だけじゃなかった。ただ負けず嫌いの俺は、こぼれそうな涙を流れる前に見えないように拭いて、お前よりも少し大人のふりをした。
 俺は今、「学校の裏山から恐竜を掘り出そう!」プロジェクトを推進している。あの時、お前が言っていた冗談交じりの夢を盗んで、実現してやろうという小ずるい反抗である。きっと、この企画が実現したら、お前はよろこんでくれるだろう。ところがお前と来た日には、幻の城郭らしき痕跡を見つけたというニュースを届けてきた。明らかにお前のほうが「でっかい」ので、俺は今そわそわしている。俺は端から見たら「ふつう」すぎる人生を歩んでいても、お前にはわかってもらえる反抗をつづけて、いつかお前に「負けました」と言わせてやりたい。これは俺たち「ミスターふつう」と「ミスターふつうパートII」の、小さくて大きい野望の競争だ。(了)

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