SSブログ

アルバム『good morning』 [アルバム]

《これは、エレファントカシマシDBに掲載した自著の流用した、作品鑑賞記録です。または「手抜き」とも言います。》
2000.04.26

good morning

『good morning』
BFCA-75001 ¥3,059(tax in.)


プロデュース : 宮本浩次


1. ガストロンジャー
2. 眠れない夜
3. ゴッドファーザー
4. good morning
5. 武蔵野
6. 精神暗黒街
7. 情熱の揺れるまなざし
8. I am happy
9. 生存者は今日も笑う
10. so many people
11. Ladies and Gentlemen
12. コール アンド レスポンス

註:アルバム『good morning』収録の【so many people】はシングルとは録音が違います。
  <good morningバージョン>とされる別の録音です。

1 ガストロンジャー

売り上げよりもなお幾百倍もの衝撃度で日本中を席巻したこの楽曲は、宮本浩次版Hip-Hopだと考えるのが妥当だろう。そして、これはエレカシの以降キャリアを見てもわかるとおり、ロック宣言でもあったわけだ。サビにいたるまでの宮本史観については賛否両論あるだろうが、【ガストロンジャー】の要点はサビにしかない。つまり、「もっと力強い生活をこの手に!OH!胸を張って、胸を張って出かけようぜ。」であり、「化けの皮剥ぎにでかけようぜ、化けの皮を剥がしにでかけようぜ」であり、「ただなあ、破壊されんだよ駄目な物は全部。」この3つのメッセージがつまりこの歌で言いたいことだ。あとは文字を埋めていったにすぎないと私は考えている。 散りばめられた社会科的な言葉に目くらましをされがちだが、核心部分は単純明快なロックである。「力強い生活」「偽物の破壊」「勝利への前進」。最後のひとりごちに似た歌詞は、死ぬまでたゆまぬ克己心を忘れずにいたい、そんな自分への暗示とも思われる。 シングル発売時にカップリングであった【soul rescue】と一対の作品ではないかと私は考えている。だから、こちらのみに焦点が集まって、【soul rescue】が忘れられがちなのをやや悲しんでいる。

2 眠れない夜

『good- mornig』がアルバム『愛と夢』の延長線上にあることが、たしかであるとがわかる1曲。宮本はまだ完全には失恋の痛みから立ち上がっていないのである。しかし、気持ちは恋愛モードではない。だから、女性にもてたい気持ちを狂言まわしにしながら、歴史観や社会観、死生観を早口にまくしたてているのが、アルバム『good-mornig』である。 サウンドはすべて打ち込みがベースであるし、おそらくそのほとんどの作業は宮本が描いたひとりのサウンド宇宙の具現化だと言っていい。このアルバムほど宮本個人による制作意図が強く、バンドサウンドが捨て去られたものはない。その意味で近年演奏されない曲目になっていることもよくわかる。 俺たちの時代はこれから。まだはじまったばかり。これが30代前半の宮本の気概である。おそらく、移籍によって得たEMIというレーベルでの気負いがかなり高い。ヒットメイカーとしての期待に対して苦闘するところもあるのだろう。

3 ゴッドファーザー

エレカシには<意味不明うた>という分類に当てはまりそうな作品がいくつかある。たとえば、この作品などはまさにそれである。音に歌詞をはめること、そして言葉の連想だけで作詞を行なっているのが手に取るようにわかる。その作詞方法は古くはボブ・ディランのそれであるが、近くは井上陽水や奥田民生のそれにも近い。意味としての言葉ではなく、印象とインパクトをあたえるためのパズルである。これまで近代文学的価値観に根ざしてきた宮本が、ここではまるでビートニクスの詩人のように、意味を越えた世界を描こうとしている。 だから、epic時代やPONYCANYON時代の世界観の枠でとらえようとすると、肩すかしを食ってしまう。しかしこの歌のタイトルの謎かけはわからない。【DJ in my life】や【東京ジェラシー】にも並ぶ不思議な歌である。

4 good morning

アルバムタイトル曲。この曲も歌詞の意味よりも音世界をどう言葉でサポートするかという1曲である。宮本流Hip-Hop。風景は愛車ポルシェで見た首都高速の朝模様だろう。クリスティーヌって誰だろう?ほとんど意味はないのだろうけれど、何か苦心して新しい言葉世界を探している宮本が見える。正直苦手なタイプの曲だ。イメージ先行の歌を手探りしているのが、このアルバムであるが、過渡期と呼んだ方がいい未完成さが目立つ。これが『俺の道』への伏線であり、また【東京ジェラシー】や【DJ in my life】への下地になったかと思うと、無碍にもできない。東京スピンで死ななかった幸運に感謝。

5 武蔵野

ずっと温めてきた言葉をやっとタイトルにしたすばらしいバラード。ここでは、打ち込みとエレカシの叙情の世界観が無理なく統一されている。それゆえ、ライブの定番となりうるその要素が詰まっている。この【武蔵野】の世界観はepic時代にもあり、キャニオンの時代にもあり、EMIの時代にも健在である。そしておそらくは、彼らが青春を過ごした荒川土手や赤羽台や埼玉古墳群の風景と重なって、ずっと生き続けていくのだろう。人は【武蔵野】は思い出のなかに消えたというけれど、胸の中に生きているものは、死に絶えることはない。思いのなかで耀きつづける景色、恋、青春を胸に大切に抱いてゆこう。そんな歌である。

6 精神暗黒街
この当時の宮本の気持ちを直截的に表現した楽曲。封印してきたアルファベットを大解放したうえに、韻律を重視した感性の作詞。そして、ギターとベース以外はすべて打ち込みであるという点も、この時の高揚感が宮本ひとりの意識のなかにしかなかったことを物語っている。よくも悪くもエレカシの恒星的存在である宮本世界を、ひとつの太陽系として描いた感じがする。それゆえ、宮本ワールドはビック・バンしたが、バンドのよさが打ち込みの背後に消えてしまっている気がする。 しかし、この開放感。ジャケットの宇宙へ飛びだして行く自動車ではないが、どこまでもその勢いのままに飛んでゆきそうな、そんな力が爆発している。

7 情熱の揺れるまなざし
もともと歌詞の文字量がメロディを凌駕しがちな宮本浩次の作品のなかでも、『goood-mornig』の楽曲群くらい、詰め込まれているアルバムはない。それはある意味作品群が宮本的Hip-Hopとなっているからではないかと思われる。にもかかわらず、「男家業フル稼働」とか「日本人未だ 西洋踊りはヘタだが」とか、 epic時代にも通じるようなベランメエ口調が登場する。バックトラックは打ち込みであるが、やっていることはトーキング・ブルース。語り節である。「世間様あんた実際どうだい?」なんて、まるで【珍奇男】と同じメッセージじゃないか。この曲では早口にしゃべりまくる、宮本の性急さが見事に表現されている。「男家業フル稼働」とはよい作詞だと思う

8 I am happy
『goood- mornig』中の隠れ名曲ではないかと私は踏んでいる。内容的には【ガストロンジャー】と重なるところが多いが、こちらのほうは皮肉というスパイスがより効いている。「あとは10年経ったらグッドバイリーダーで われらの時代を生きていくでしょう」という歌詞が強烈に胸にささってきた。この国を動かしている多くの老壮年の権力者に向かって、「若い」という事実を大看板に、10年たてば我らの時代だと大向こうを切る。これはファーストの【ゴクロウサン】にも通じる。辛辣ながらも、その真意は若者賛歌である。「I am happy あいつら関係なかったよ」という決めゼリフが格好いい。暮らしというヤツは結局ひとりひとりのものであって、総理大臣や権力者のものではないという核心をずばりとついている。シングルカットされた【ガストロンジャー】に注目がゆきがちだが、「今日も総理大臣アホ面こいて 説得力ないけど エラそうなフリして」という、この歌の方が表現としては過激である。(ちなみに当時の総理大臣は小渕恵三首相、その後継は森喜朗。)

9 生存者は今日も笑う
構成的には【情熱の揺れるまなざしにとても近い。歌としての魅力よりも、音楽にのせた語りという側面の方が強い。ポエトリー・リーディングと呼ばれるような感じもしないでない。悩んでも悩んでも、結局生きていたものの天下。【so many people】でも同じ内容を主張しているが、死んでしまっては何もならない。この世は生きているものが笑うのだ。という、皮肉ながらも、「死ぬなよ」という力強いメッセージでもある。

10 so many people
「good -mornigバージョン」と名付けられた、シングルとは別アレンジの【so many peple】。【ガストロンジャー】【武蔵野】と並んで屹立する名曲。ヒットによって手にした大金で、はじめて得たスポーツカーの運転。高速道路を文明の利器で疾走してはじめて得た感覚が、この歌の中につまっている。エピックソニー時代の売れない鬱屈を突き抜けて、<瞬間>のよろこびの中の<革命>を見つめている。定めなき世の定め、かりそめでもいいよろこびを。願うことのなかのレボルーション。

11 Ladies and Gentlemen
トラック収録にはなっているけれど、いわゆる「つなぎ」、インターミッションだろう。意味としては、【ガストロンジャー】から【so many people】までの夜の歌を終わらせて、朝と覚醒を告げる【コール アンド レスポンス】に接続するための挨拶。革命を告げる鐘の音。

12  コール アンド レスポンス
どんなに権勢を誇っても「いずれ死んじゃうんだぜ」、というのは宮本がデビュー以来持ち続けている、人生への諦観である。この歌では、その諦観を人類全体にまで押し広げて、いずれ死ぬことを「死刑宣告」というセンセーションな言葉で突きつけている。「人生は死という死刑執行までの収監期間である」という名言を残した作家がいるが、それに等しい鮮烈な死刑宣告である。「皆様ご承知のこととは思いますが、発表します、全員死刑です!」。とは、生まれながらにして「死」を宣告されている、人間という存在へのセンセーショナルなアジテーションである。少なからず成功を収めてしまった自分への挑発、「いい気になるな」という戒めが、アルバム『good -mornig』のなかには込められている気がする。宮本は自分自身に対して、「死刑宣告」をあえてしているように強く感じた一曲である。



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。