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下手な鉄砲 [つれづれ]

読売新聞 関西版の夕刊に掲載されたという、
「私を変えた○○」という連載企画。
宮本浩次にスポット当てた回では、
「宮本浩次を変えた『日和下駄』」となっていたのである。

その記事の大要を、フミリスさんのブログ上で拝見した。
http://humilis.blog81.fc2.com/blog-entry-1378.html

「やはりな!」と手を打ち、得心すること、しばし。
宮本浩次が荷風信奉者であるとは知っていたのだが、
まさか入り口が睨んだ通り『日和下駄』であったとは、
あまりにも予想通りで、自分の直感のシンクロニシティを誇りたくなる。
などといっても、たまには当たる辻占い。見よう見まねの八卦。
下手な鉄砲なんとやらなのである。



ただ、記事を見る前に宮本浩次と『日和下駄』について、
この辻占いは確かに記述しているので、ぜひ一見していただきたい。
「在りし日の面影(あるいは東京散歩)」

一文を抜粋すれば、以下の通り。
そして、エレカシファン(カシマシファン)は宮本を思って、東京をめぐる。
荷風が江戸を幻視したように、宮本が荷風を幻視したように、
エレカシファン(カシマシファン)は宮本を思って、東京をめぐる。
憧(あこが)れというものは、けだしそういうものなのだろう。

エレカシファン(カシマシファン)のその手には、
「武蔵野三十三景」の手引きと共に、
ぜひとも『日和下駄』を忍ばせて欲しいものだ。
さすれば、日和下駄と蝙蝠傘はなくとも、
懐(ふところ)に在りし日の面影をしのばせて、大東京を歩くことになる。
それはすなわち、宮本浩次にも通じる心地であることは云うまでもない。

たまにしか当たらない辻占の八卦にしては、よく当たったものだ。
これでは、この適当でいい加減なブログ席亭が、
エレファントカシマシや宮本浩次をよく理解しているように誤解されてしまうかもしれない。

いや、それはないだろう。
さほどにファンのあいだに通った権威ではない。
それどころか、永井荷風が好きとなれば、まず通る入り口。
『墨東綺譚』や『腕くらべ』『つゆのあとさき』『おかめ笹』などと、
はじめから言ったのではさすがに文学研究者である。
わたしもそうなのだが、入り口はだいたい『日乗』の摘録版か『日和下駄』である。
森鴎外と聞いて、『北條霞亭』や『渋江抽斎』を連想しないのと同じだ。
やはり入り口は、『山椒大夫』『舞姫』『高瀬舟』などである。
わたしの鴎外への入り口もだいたいそんなものであった。
少し囓ると「カズイスチカ」や「かのようなもの」や「普請中」がよいと言い出すのだ。

そう明治文学といえば、もう一方の雄、夏目漱石がある。
宮本浩次は鴎外派であるので、なかなか漱石の名は出ないが、
龍之介に影響されて中国茶器の造詣を深めている宮本のこと、
読んでいないわけがない。
おそらく、『三四郎』『それから』『門』の三部作や、
『坊っちゃん』『こゝろ』あたりを読んでいるのだろう。
わたしは漱石の作品中ゲキ渋で大好きなのは、
実は小説ではなく随筆集の『硝子戸の中』なのである。
これを読むと、漱石の死生観や宇宙観や教養の広さがわかるのだ。
しかも、ところどころに挟まれる俳句がまた素晴らしい。

永井荷風の諸作も、鴎外の諸作も、あるいは漱石の『硝子戸の中』も、
著作権失効の作品なので青空文庫で手軽に入手できますので、
日本人ならぜひ一度読んでいただきたい。
それにしても、『日和下駄』が「歩く男」の由来とは、よく当たった八卦である。
(了)

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Salut

黒のシジフォスさん、こんにちは。

関西TVの今朝(4/30)1:59からのミュージャックという番組のインタビューで宮本さんが漱石のことを語っておられました。

要約すると、
漱石は文庫本で何回も読んだが、書簡集など新しいものを読みたくなって古本屋で夏目漱石全集5巻を買いました。ツアー中なので全部読めるかと思って4巻と5巻を持ってきた。志の高いところがいい。
と、今ここを読んでいる、と4巻にはさんでいる栞のところを開けて示していました。4巻には虞美人草と書いてありました。

4:23からの音エモンという番組はインタビューも長く、曲もたくさん流れて両方ともとても見ごたえがありました。

ここに書いていいのかどうか分かりませんが、ホールのツアーは6人編成だそうです。
by Salut (2011-04-30 17:17) 

黒のシジフォス

> Salutさん、貴重な情報ありがとうございます。

宮本氏は漱石全集を読み返し中なのですね。
しかし、思い立って5巻を買うところが、
「思い立ったが吉日」の人らしいですね。
現在は「虞美人草」を読んでいるところなのですね。
参考になりました。また、情報をお寄せくださいませ。

ちなみに、私の実家には母の買った1970年代版の『漱石全集』があります。
それはいわゆる「旧かな」遣いで、子どもにはとても読めないやつでした。
中学生時でも辛かった。
「てふてふがらんたふとうに向かつて…」みたいな感じです。
ほぼ暗号です。

ホールツアーは「S」なのですね。それは貴重な情報です。
本人が公言しているので、公開情報あつかいだと思います。
また、当ブログの影響力など微風ですから、気にしないで大丈夫ですよ。

私は樋口一葉に初チャレンジしようと思っております。
鴎外の親戚で早逝の女流文学者ですね。
名前だけ知っていて、読んだことがないのは恥ずかしいので
「たけくらべ」いってみようと思います。
by 黒のシジフォス (2011-04-30 23:59) 

Salut

黒のシジフォスさん、少しはお役に立ててよかったです。
ついでに、もう少し詳しい情報を・・・

宮本さんの読んでいた漱石全集は岩波書店版です。
大きさはbridgeと同じくらいですが、かなりの分厚さがありました。
装丁は何回も発行されている岩波の漱石全集や「硝子戸の中」などの文庫版と同じ朱色の地に、一面に何というのでしょう梵字でもなく中国の金文のような漢字が白で色抜きされていて、アイボリーの外箱には漱石専用の手書き原稿が印刷してありました。
第4巻の真ん中くらいに栞があったでしょうか。
わざわざカメラに向かってページを開いて見せてくれたのですが、ぼやけて文字が判別できなかったのが残念です。

漱石と並び立つ明治の文豪森鴎外は、漱石の本のほうが自分より多く読まれ、人気があることをやっかんだとの話がありますが、確かにとっつきやすく、まして東大から朝日新聞社に高待遇で迎え入れられて、部数を増やすために新聞に連載した「虞美人草」などは大衆を意識して書かれているので当然のことだと思います。

車や新幹線で移動のときに宮本さんが持っていたトートバッグのヴォリュームはまさにこの2冊が入っていたような気がします。

無事ライブツアーを終えられた宮本さんは5巻の最後まで読まれたのでしょうか。
by Salut (2011-05-02 23:46) 

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