SSブログ

ふたたび時代小説を読むか… [つれづれ]

今日明日でアルバムツアーが終る。
ということで、参加される方はその喜びを感じる二日間。
その一方、文京区にはおらないファンもいる。私もまたその一人である。
だが、妬むことはない。
マネージャーでもないかぎり、すべてを目撃することなどできないのだ。
それぞれが、それぞれの場所で、それぞれの掴み方をすればよいだけである。
百回の経験にまさる、一瞬のひらめきもある。
ならば、感じることもまた同じなのである。
当日現地にいて目撃したものよりも、
参加者のライブ評やセットリストを見て、より感得するものもいる。
それが世の中の不思議さというものである。

それはさておき時代小説の話である。


今年の頭くらいに、エレカシDBさんの登録プロフィール・データを使って、
エレカシ・ファンが好きな作家というのを集計したことがある。
それは当該項目を見てもらうとして、
その中では投票が低調だったジャンルのひとつが、「時代小説」である。
363票の投票があって、その中で「時代小説」作家が獲得したのが、

時代小説
1位: 司馬遼太郎(12票) 2位: 山本周五郎(3票) 3位: 山田風太郎(2票)
4位: 宇江佐真理/宮城谷昌光/山本一力/酒見賢一/池波正太郎/畠中恵/飯嶋和一(1票) 


こんなところなのである。
総合順位5位の司馬遼太郎が奮闘しているが、それでも12票である。
その下になると、いきなり「3票」であるから、がっかりしてしまう。

宮本浩次は時代劇をよく見るらしいことは、
MCやらインタビューやらでよく知られている。
『水戸黄門』をはじめとしたTBSの再放送ものや、
少し前の水曜8時枠のフジテレビの時代劇を見たのだろう。
『鬼平犯科帳』や『仕掛人・藤枝梅安』『御家人斬九郎』などである。
それらの時代劇には、下敷きとなる原作があって、
池波正太郎や隆慶一郎や柴田錬三郎などの大家が書いたベストセラーである。
『水戸黄門』や『桃太郎侍』も山手樹一郎という作家の原作があることは、
案外と知られていないことである。

さて、私もそこそこの読書好きであり、だいぶ時代小説の名作を漁った。
それらを俯瞰して考えてみる。エレカシ・ファンにとっつきやすい時代小説は何か。
ランキングを見る限り、好まれているのは司馬遼太郎であるが、
私のなかでは「司馬遼太郎=時代小説」という図式はちと違うのである。
私が個人的に大好きなのは、天下国家を娯楽のなかに示してみせる山田風太郎であるが、
エレカシ・ファンと忍法帖はちと毛色が違う。
ちなみに女忍者を「くの一」と称するのは山田風太郎の発案による。

私が感ずるところ、エレカシ・ファンにぴったりくる時代小説作家は柴田錬三郎である。
漢学の素養がありながら、フランス文学を専攻し、
フランス文学を専攻しながら時代小説の大家となった「粋(すい)」の人である。
岡山県の出身で、慶応大学卒。佐藤春夫の門下にありながら、あの作風らしい。
佐藤春夫に師事しているので、森鴎外の系譜につながる作家であることは確かである。
しかし、私の印象ではむしろ永井荷風に近いところがある。しかもデカダンである。

柴田錬三郎こと「シバレン」さんの代表作といえば「眠狂四郎」である。
たしかに一大シリーズとなった傑作であるが、これを読めとはなかなか言いづらい。
というのは、とにかく長いのと、時代小説に馴れていない人にはとっつきにくいからである。
そこで私はあえて、随筆集を読んで欲しいと思うのだ。
私が手元において時折読み返す、集英社文庫版の『地べたからもの申す』などは、
まさに名随筆である。
数々の蘊蓄をひろうしていて、かなり目から鱗が落ちるのだが、まったく説教くさくない。
しかも、その言葉たるや東京人よりもなお「江戸っ子」なのである。
(シバレンさんは鮨(すし)が嫌いな「江戸っ子」であるが)
それはまあ一読すればわかっていただけるであろう。

そのシバレン節に惚れたならば(たぶん惚れるであろう)、次は戯作ものである。
随筆を読んだあとにまず手に入れて欲しいのは、『御家人斬九郎』である。
これはとにかく面白い。しかもシバレン作品のなかでは明るくて入りやすい。
その上、時代劇としてヴィジュアル化もされているので、そこから入ってもいい。
渡辺謙演じるところの斬九郎と、岸田今日子演じるところの麻佐女、母子(おやこ)の掛け合いもいい。
小説もいい、劇版もいい、希有な作品のひとつだ。

『御家人斬九郎』は1話完結の短編連作なのだが、そのタイトルがふるっている。

「男ってえ奴はこんなものさ」
「二兎を追ったら二兎をも獲るさ」
「隻腕でやるかたてわざ」
「柳生但馬守に見せてやりてえ」
「直参旗本の死にざまだぜ」
「良人を殺した気持ちが判るぜ」
「女の怨念はおそろしいやな」
「寺で新仏をつくってやらあ」
「正義の味方になってやるぜ」
「女の嫉妬はこうして斬るのさ」
「箱根の山は越えにくいぜ」
「あの世で金が使えるか」
「美女は薄命だぜ」
「座敷牢に謎があるぜ」
「青い肌に謎があるぜ」

このタイトルを見るだけで、読みたくなってくるってものだぜ。
物語に触れない程度に設定を教えよう。

松平残九郎(通称:斬九郎)は本所割り下水に住む貧乏御家人(将軍直属の家臣)。
名前の通り九番目の子どもで、四男五女、子だくさんの末っ子。
しつけに厳しい父母(ちちはは)に育てられ、上の長男次男は剣術修行中に落命、
三男は養子に出たまま家によりつかず、姉御たちはすべて嫁ぎおえ、
末っ子の残九郎と老いた母の麻佐女の二人ぐらしをしている。
しかし、三十俵三人扶持の御家人というのは貧乏人であるから、
お召し抱えの給与では喰っていけない。
…てぇところから、内職(アルバイト)である。
それが「片手業(かたてわざ)」と呼ばれる仕事。切腹の際の介錯人の仕事である。
介錯というのは、腹をかっさばいている侍の斜め後ろに立って、首を落としてやる介添人である。
この介錯人というのは、そうとうの手練でないと、刃をひっかけて切腹している本人がたいそう痛がるらしい。
そんことからもわかるが、斬九郎は剣の達人なのである。
剣の達人で暇をあました御家人となれば、用心棒やら、探偵やら、面倒ごとの依頼が舞い込むのである。
すなわちこれ、江戸時代の「何でも屋(よろづや)」である。
あまり働くことに熱心でない斬九郎も、山吹(小判)を山と積まれた日には嫌と言えない。
「仕方ねえな」とばかりに身分を隠して今日も「片手業」の日々。
ただ、斬九郎の内職の成果は、たいてい母の麻佐女が喰ってしまうのである。
八十に近い母の麻佐女は料亭から最高級の膳をを取り寄せて喰うのが趣味なのだ。
しかもこの母、武道の腕が立ち、斬九郎も形無しであるから手に負えない。
「片手業」で稼いだなけなしの金子(きんす)が…、今日も麻佐女の飯代として消えるのであった。

シバレンものでは、そのほかに長編伝奇ものが評判がいい。
『運命峠』や『赤い影法師』なんてのを読むといいんじゃないかな。
で、だいぶわかってきたところで、「眠狂四郎」へ行くのがいい。
最初から「眠狂四郎」だと、善悪どっちかよくわからない「狂四郎」に戸惑うこと請け合い。
何だこんなもん。ただの悪漢小説(ピカレスク)じゃないかと早合点してしまうのである。

シバレンものがよかった人には、似たような匂いのある半村良の時代物もおすすめ。
半村良、こちらは本物の「江戸っ子」。両国生まれ両国育ち。
引っ越しマニアの庶民派で、人情ばなしを得意とした作家。
『どぶどろ』っていうのが傑作。それから怪談話だが『能登怪異譚』ってのもいい。
余所に紹介していると自分も読みたくなるもので、
また時代小説でも読むかな…。
いまの気分で言うと山本周五郎かな。周五郎はだいぶ年を重ねないと良さがわからない。
黑澤明の映画の半分は山本周五郎の原作なんだぜ、しかもほとんど原作通りの展開。

日本人に生まれて、日本人に育ったなら、時代小説の一つや二つ読んでおかないと、
異人さんにあんたの国のサムライってどんな奴でぇ、と問われたときに、
口ごもって答に困っちまうぜ。
悪いかたぁ言わねぇから、騙されたと思って読んでみな。
ライトノベルなんていうペラペラすかすかの「おたんちん」の100倍すっきりするぜ。
髷物は日本の西部劇だぜ。取られた仇を取りかえす。

で、この項目がどこでエレカシと繋がってるかって。
『鬼平』…、『水戸黄門』…、『江戸を斬る』…、『三匹が斬る』…、
『大江戸捜査網』…、『大岡越前』…、『名奉行遠山の金さん』…、
なんかどこかで繋がってるんで、読者のほうで繋げといて下さいな。
ツアーのおしまいをキメてる時に何をやってんだかねえ。(了)

nice!(1)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 4

ちるちる

時代小説馴染みが無くても面白いです
シバレンの眠り狂四郎シリーズ全巻読みました
登場人物が個性豊かで引き込まれます ハマリます
なんか火が点きました 時代小説読みたくなりましたよ
by ちるちる (2011-06-19 20:17) 

黒のシジフォス

ちるちるさん、一本取られました。
そういう人も稀に居られるんですな。

私は「無頼控」で止めたんで、狂四郎は深く語れません。
でも、狂四郎はたまに味方らしき人物も斬るし、
気分で助けなかったりするから、理解が難しいんですな。

斬九郎のほうはもうちょっとお人好しなんで、
ニヒルではなく、ヒーローよりです。
稀びとな「ちるちる」さんには、半村良の『妖星伝』おすすめします。
時間・空間・宇宙・将棋・捕鯨問題、詰め込んである名作。
あとは飯嶋和一の『始祖鳥記』かな。
空を飛ぼうとした表具屋のその後のお話。
あるいは伝説的な力士「雷電為衛門」の伝記小説『雷電本紀』。
「ふつう」に暮らすっては立派なことさねえ。
by 黒のシジフォス (2011-06-19 21:23) 

一ファン


>突っ込みは、私にお願いします。

ありがとうございます(笑)了解いたしました。
熱狂的なファンさんがいらっしゃるんですね。ある御方のブログにキツいコメントを入れる御方が・・・・・・。それでそのブログの主はとうとうコメント欄を閉じてしまわれたようです。私はそんな意地悪な事は致しませんデス。

そのブログ主の読書歴に千葉敦子さんがあり、また私はクリスチャンではありませんが三浦綾子さんの「塩狩峠」を読んで甚く感動した事がありました。それと私も看病、介護は経験してきましたので多少の共通点に嬉しさを覚えながら時々お邪魔しているのですが、今お元気がないようなので少し心配しているのです。が、彼女ならきっと大丈夫。乗り越えられるでしょう。こんな時、コメント欄があればと思いました。

話しが逸れましたが「シバレン」「山手樹一郎」懐かしいです。
高校生の頃、父の本棚より暇任せに読んでいました。他にも時代小説は沢山ありましたが彼らのは読みやすかったんでしょうね。なんせ一方では「赤毛のアン」シリーズを読んでいましたので(笑)

ここ数十年はノンフィクションが殆どでしたのでこれからは時代小説も読んでみたいですね。藤沢周平他、昨年購入したままで未読です。
時代小説の話、参考になりました。合い間の四方山話し、楽しみにしております。


「二兎を追ったら二兎をも獲るさ」・・・・・まさか女性の事では(笑)
「女の嫉妬はこうして斬るのさ」・・・・・・男の嫉妬は如何様に(笑)

すみません。最後にシバレンさんに突っ込んでしまいました。こんな事いったら「平家」の序文ぢゃないけれど・・・・・・夢も希望もいらねぇよになってしまいますね。「町を見下ろす丘」思い浮かべてしまいました。このアルバム、そんなに売れなかったそうですが私は大好きです。取り留めの無い駄文、申し訳ありません。

by 一ファン (2011-06-26 14:25) 

黒のシジフォス

> 一ファン さん、
たびたびコメントありがとうございます。

『町を見下ろす丘』は私のなかでも一番あじわい深い、
大好きなアルバムです。
しかし、枚数は伸びてませんねぇ。
ただ、人気アルバム調査では、たいがい『俺の道』の時点くらいで、
二番目にくるのがこのアルバムですよ。

ところで、【今をかきならせ】の「平家の序文ぢゃないけれど…」ですが、
あれは「盛者必衰」を「邯鄲一炊の夢」をとりちがえてるやうにおもひます。
中学のころ『平家物語』の巻第一「祇園精舎」暗唱できたので、
よく覚えています。
あれは「驕れる者久しからず」の章ですから、「この世は夢か」ではないんです。
宮本氏がいわれるのは、「胡蝶の夢」などの『荘子』などの逸話のやうに、
私には思えるのです。

さりとても、よき作品。
売り上げ枚数は少なくても、聞いた人に刺さってるってこと。
新しくファンになった人には、迷ったらこの作品と言いたい。
ライブで人気の曲も多いですしね。
by 黒のシジフォス (2011-06-26 19:16) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。