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夕暮れの歌 [企画もの]


エレカシは夕暮れの歌が白眉であると私はずっと信じている。
もちろん、夜の歌も朝の歌も、当然昼の歌だっていい。
だが、夕暮れの歌はどれもクオリティの高さが格段なのである。

ということで、全楽曲にしめる夕暮れの歌の数をかぞえてみた。
夕方が歌詞中の世界観に単独で占める歌は13曲ある。

おはよう こんにちは / 偶成 / 通りを越え行く / 誰かのささやき / 暮れゆく夕べの空 / 愛の日々/ ふたりの冬 / はじまりは今 / かくれんぼ / DEAD OR ALIVE / オレの中の宇宙 / 必ずつかまえろ / 幸せよ、この指にとまれ /赤き空よ!

である。これを見るだけでもその激シブ度が理解されるというものだ。

これに、

<夕方~夜>の歌
翳りゆく部屋 / さらば青春 / sweet memory

<朝~夕方>の歌
日曜日(調子はどうだ) /昔の侍

<昼~夕方>の歌
いつものとおり / 人生の午後に

<朝&夕方>の歌
Baby自転車 / ネヴァーエンディングストーリー

以上の9曲を含むとほぼ全貌になる(ほかに全時間を含む【おかみさん】が例外にある)

この中には、シングルのAサイドを飾る曲は【はじまりは今】しかない。ただ、エレカシ通に名曲との呼び声高い楽曲が、ふんだんに含まれていると思わないだろうか?

実際の話、全楽曲中に占める「夕」歌の割合はそんなに高くない。約200曲の持ち曲のなかで20曲そこそこ、1割あるかないかである。これはその3倍60曲近くある「夜」歌と比較するとどのくらい少ないかがわかる。「昼」歌でも2倍の40曲はある。にもかかわらず、エレカシに夕方のイメージが強いのは、曲数の割には印象の強い楽曲が「夕」歌に多いことの証明である。

EPIC期の【偶成】や【誰かのささやき】
CANYON期の【昔の侍】や【さらば青春】
EMI期の【DEAD OR ALIVE】や【人生の午後に】
universal期の【翳りゆく部屋】【ネヴァーエンディングストーリー】


どれもアルバムで一聴したところは控えめな印象の曲だが、心に刺さって抜けない、じんわりとした良さがあるのは、まさしく「夕」歌である。夕暮れをこれだけ叙情的に歌えるロックバンドは、日本広しといえど、いや世界広しといえどそうそういるものではない。



EPIC期の白眉の「夕」歌といえば、何を置いても【偶成】をその筆頭に挙げるだろう。

ああうち仰ぐ空のかなたに
きらりと光る夕陽あり
流るるドブの表をきらりとさせたる夕陽あり
俺はこのために生きていた
ドブの夕陽を見るために


前半より綴られた混迷の心情が夕陽によって解放される瞬間の美しさ。また、空を仰ぎ、目を落としたドブ川に映る夕陽の美。まさに地に光る輝き。空ばかり憧れたものに与えられた救い。宮沢賢治が童話「十力の金剛石」に描く世界である。

CANYON期では【昔の侍】の

たなびく雲 沈み行く夕日よ
ああ さよならさ
滅びし日本の姿よ


と、【さらば青春】の

久しぶりさ 町は夕暮れ過ぎて
輝き始めたけれど
俺は 俺は 俺は 俺には何も
何も見えなかった


の表現は地続きに思える。憧れ、恋、青春の失滅。
CANYON期の夕陽は少しセンチメント(感傷)なのである。

ではEMI期の夕景はどのようなものだろうか?

電気をつけて まだ生きている まだ進んでる
おもむろに俺テレビをつけた 暮れゆく空

【DEAD OR ALIVE】

であり、

思ひ描いた日々と今の自分を重ねて
窓の外を眺めてゐた 重く垂れ込むる雲
人生の午後に 人生の午後に
人生の午後に・・・

【人生の午後に】

である。
救いのない求道の世界であがく大人の男がいる。

こうやって浮き沈みの心情を綴ってきた「夕」歌は、universal期にいたって次のような心情を【ネヴァーエンディングストーリー】で訴える。

もうすぐさbaby! 夕暮れが街赤くする
一切がワンダフル やがて人は家路へと急ぐ

もう二度と戻らないこの時を
俺の全部精一杯でふたりいろに染める



この歌詞は、力強いポジティブな内容もさることながら、『STARTING OVER』でカバーされた【翳りゆく部屋】へのアンサーソングという側面もあるような印象を受ける。戻れない運命と知っても、決してあきらめはしないという強い決意。また、人々が家路へ辿る夕景は温かい景色だという描写が、心はなれる恋人へ向けて、ふたりの帰る家を持とうというメッセージにも取れる。それは、夕闇のなか去っていく恋人を見送る【翳りゆく部屋】を超えたいという願い、そんな気がするのである。

窓辺に置いた椅子にもたれ
あなたは夕陽見てた
なげやりな別れの気配を
横顔に漂わせ

二人の言葉はあてもなく
過ぎた日々をさまよう
ふりむけばドアの隙間から
宵闇がしのび込む

どんな運命が愛を遠ざけたの
輝きはもどらない
わたしが今死んでも


この【翳りゆく部屋】の一番の歌詞を読めば、そのように想像してしまう。【ネヴァーエンディングストーリー】のメイン・ストーリーは、一日を過ごしゆく男女のかけがえのない日々への哀感と言ったものである。その点では、自作の【リッスントゥザミュージック】もしくは【まぬけなJohnny】への返歌とも思える。

持ち歌のなかのたったの10%しかない「夕」歌。されどその「夕」歌の印象たるや「朝」「昼」「夜」をしのぐ存在感を示している。(了)
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