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HMV渋谷店の閉店 [つれづれ]

先日8/22、渋谷にある大手外資系CD販売店HMVの閉店イベントに参加してきた。
渋谷にあるTower RecordとHMVとは2つのランドマークであるばかりでなく、
「音楽の街」渋谷を象徴するふたつ柱だった。
エレカシのライブが渋谷で開催される時は、
当然のようにこの2つの大型店舗にCDやDVDソフトを覗きに行ったものだ。

私のなかでは視聴機の多さではタワー、
品数の多さと値段の安さではHMVという分類があり、
まずタワーをのぞいてから、HMVに行くという順路があった。
(まれにタワーのが安価なことがあり、HMVから引き返して購入することもあった)

エレカシもHMVでインストア・ライブを行ったことがあるので、
まったく関係のないところではない。
エレカシDBさんのライブ履歴によると、
1994年と1998年に1度ずつインストアライブを行ったことがあるらしい。
近年では、ピストン西沢がDJをする「Groove Line」のサテライト・スタジオに
PR出演する場所としての印象が強い。
私も一度、2Fのサテライト・スタジオに宮本を観に行ったことがある。

(続きはエレカシとはそれほど関係のない話の長文なので、お暇な方だけどうぞ。)

HMV渋谷は開店当初は現在の位置にはなく、
センター街のもう少し奥にあるパチンコ屋の半地下部分に店舗を構えていた。
店はワン・フロアであるため、品揃えは現在と比べるべくもないほど少なかったが、
当時は輸入盤を販売する店が開店されたこと自体が衝撃的だった。
しかも、日本盤の洋楽CDよりも格段に安い値段であったことが、
洋楽ブームを牽引する一因になった。
いわゆる渋谷系音楽が流行ったのも、DJなどのダンスブームが再来したのも、
外資系大型CD量販店の日本市場参入があったのだと思う。
そして、にわかに盛り上がった音楽市場に対応して、
6F建ての現在の建物をほぼ一棟借り切って、
HMVは売り場面積を拡大したのだ。
それは、タワー・レコードが渋谷の山手線の線路沿いに、
ビル丸ごとを借り切った大型店舗を構えたことに対応した、拡販戦略であった。

エレカシに関していうならば、邦楽のコーナーで扱いがよかったのはタワー・レコードの方である。
インストアライブの回数もタワーのが多いらしい。
ただ、先ほども述べたように、J-WAVEのサテライト・スタジオがあった関係で、
ゲスト出演を含めると登場回数はHMVのほうが若干上回る気がする。
また、TOKYO-FMのスペイン坂スタジオが目と鼻の先にあり、
その意味でも渋谷のラジオ・イベントというと
HMV渋谷のイメージが浮かぶのはあながち間違いではないだろう。

90年代半ばから00年代半ばまで、
CD販売を中心とした音楽産業は、ほかの産業が不況にあえぐ時も活況を示し、
売り上げバブル的な傾向があったが、
00年なかばから圧縮音源の再生機器の売り上げが上がるにつれて、
売り上げが落ち込むようになった。

殆どの人が、レンタルで借りて取り込むか、
あるいはネット上の違法配布によって手にする音源によって満足し、
CDを手元に置くという感覚が薄まったのである。
今回のHMV渋谷店の閉店という出来事に対して、
音楽業界は「違法ダウンロード」を第一の原因に挙げているらしいが、
必ずしもそれだけではないと私は考えている。
なぜならば、この音楽不況のなかで売り上げも、
ライブ動員も増やしているアーティストがいるからである。
その代表的なアーティストが誰あろうエレファントカシマシである。

この音楽不況のなかで、なぜエレカシがかくも売り上げを伸ばしているのか。
このことを考えると程なく音楽業界の怠慢に行き当たる。
なぜなら、エレカシは当たりまえによい楽曲を制作し、全力でライブ活動にあたり、
そしてある程度コンスタントな間隔でリリースを続けている。
まさに当たりまえのことをしているだけだからである。

では、音楽界の傾向を見るとどうか。
明らかにCDの売り上げがバブル傾向にあった時代の商売感覚が続いているのである。
たとえば、メディア・タイアップが第一の販売戦略であること。
売り上げ枚数を増やすための嵩増し戦略。
売れ筋の傾向をファクトリー的に量産する制作体制。
その路線のなかで毎年生み出されては消費される新人アーティスト。
そんな業界の作り出した大量生産のゴミが、HMV渋谷店の閉店セールのワゴンのなかで、
「100円」や「70%OFF」の値札を貼られて並んでいた(しかもそれでも売れ行きは悪かった)。
結局、ワゴンセールのなかをのぞくと業界の膿(うみ)は大抵わかってしまうのである。

音楽業界バブルの夢のあとが見たければ、ブックオフや中古CD屋の廉価コーナーをのぞけばいい。
大量生産-大量消費のサイクルで作り出されたミリオン・ヒットが、売れ残りのやっかいものとして並んでいる。
つまり、それがCD売り上げ不振の原因そのものである。
数年を経てのちに手元に残したいものではないから、
刹那に消えるデジタル音源、圧縮音源で構わないと、ちまたの音楽好きは思ってしまうのである。
名盤再発を繰り返して、何度も再購入を迫るやり方も、今では見透かされて飽きられている。

音楽業界が生き残りたいなら、
よい作品をアーティストとともに制作して、
それを何年も手元に残したい魅力のあるパッケージにすること。
そして、その作品を廉価再販することなく、一定の価格で恒常的に売り続けていくこと。
それがファンの信頼を得る第一の方法である。
廉価再販やベストアルバムを頻発することは、
ファンの音楽倦怠を煽るばかりである。
よい作品ができないときには、
アーティストにインターバルを取らせることも必要なことである。
レコード会社の利益を優先して、
何が何でも毎年何枚かのシングルとアルバムを発売するというサイクルを要求することは、
間違っているのだ。
そうして、数を集めることで、売り上げを確保するやり方は、
消費者のCD棚をあふれさせるだけでなく、
中古CD屋の廉価セールの棚もいっぱいにしている。
ネット・オークションを見て「1円」という最低価格のついた作品を見て、
痛ましいと思わない業界関係者がいたらその感性を疑う。

私は閉店するHMV渋谷店で2つのCDを購入してきた。
ひとつはEnnio Morriconeの『The Mission』のサウンド・トラック。
これは映画音楽のなかでは隠れた名盤として知られた1枚である。
1800円の値札があり、さらに30%OFFで1260円だった。
そして、もうひとつはGeorge Shealingの『MPS Trio Session』(4枚組)である。
こちらは盲目のピアニストGeorge Shearingがドイツのレーベルに残した、
5枚のアルバムをワンセットにまとめた再販廉価もの。
CDとしての発売は初めてらしく、リマスターを高音質でかけた良品である。
ジャズのピアノ・トリオでありながら、ドラムの代わりにギターを入れた、
かなり異色の編成であるが、サウンドはいかにもクラシック・ジャズだった。
George Shealingは派手さのない地味なピアニストで、
ピアニストとしてよりも名作曲家の評判が高いが、
どうして素晴らしい名演集で我ながら目の高さに自惚れしたくなった。
こちらは3770円の30%OFFで2639円だった。

閉店セールに併せた無料音楽イベントを鑑賞しつつ、
音楽文化がやせ細っていく現状を悲しく思った一日。
しかし、家に帰ってCDをかけてみると、
やはり高音質のCD音源で聞く名作はYouTubeの音源とは違い、
ふくよかでイメージの世界が広がる豊穣な味わいがあった。
これが楽しみにならない世代が増えているのかと思うと、
ピコピコの電子音で作ったボーカロイドの作品が、
人間の歌唱作品を越えて売れる惨状が悲しく胸に迫った。
対面販売より自動販売機のがいい、そんな世界にいつからなったのだろう。
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