眠れず当日

なんだか色々なところの文章を読み回っていたら、結局、眠るタイミングを逸してしまった。
子守歌がわりにとエレファントカシマシの作品を聴いたのもまずい。
『町を見下ろす丘』の作品を聴いていたら、不覚にも涙が滲んできてしまった。
中年男は涙腺が弱くていけない。

自分のブログで何かアピールできる文章はないか、と考えてみたものの、
今更になって推敲もせずにロクな文章がものせるはずがない。一流の随筆家でもないのだし。
それゆえ、書きためたものの内から出来のよいのをひとつふたつ拾おうと考えて、
二次創作のエレカシ短歌を眺め返していたら、こちらでも不覚にも泣けてきた。
作者の心情に沿って作歌した幾首もの作品ゆえに、オリジナルの魂がのりうっつっているところがある。
で、結局、これも選びきれないのでほかしてしまった。とにかく、今日突然には選びきれない。

何か、どんな音楽を聴いても今日の午後からのことが頭にうかんで上の空で、どうしようもない。
きっと何も変わりはしないことはわかっていても、
少しでもがんばりすぎているのが見えたりしたら、一観客にすぎない自分は泣いてしまうだろうなと思う。
私はエレファントカシマシの宮本浩次ほど勇ましく雄々しく見えた歌手はいないし。
それは文字通り「男のなかの男」ということだが、それは腕力とか、紳士（じぇんとる）とかいうことではない。
臆病さや卑怯さまでもひっくるめて、率直な人間性をさらしてならない、
太宰治や永井荷風にも通じるような人間くささである。
一片の卑怯さや少しばかりのずるがしこさが許せない人には、宮本浩次は少々灰汁が強い。
キリストや孔子や釈迦と比べてどうこういうのも何か違う。
私生活では女性を泣かしたこともあるだろう一人の男、宮本浩次は、しかし格好がいいのだ。
それをひっくるめて自分をいつわらないのだ。

黒服系のスーツが似合うブルース・ロックを格好いいという人もいるだろう、
あるいは、カジュアルなお洒落ブランドを着こなしてスタジアムを埋めるミュージック・スターもいると思う。
ただ、そんな見栄えのする格好よさとは違う男らしさが、宮本にはよく似合う。
空意地、空元気。はったり加減で見栄をきっても、全身全霊は正真正銘。
見せなくてもいいところまでもさらしながら、前へ、前へ、その先へ先へという意気地。
「求めたりない道をあゆみつづけるもの」。

つまずいて転んでいたよ、と他所で聞きつけても、
なあにそれがどうした、人間だから転びもするさと、格好よさが一向に減らない男。
何か不孝があってしょげていたよ、と口さがないマスコミにたたかれても、
なあにそれがどうした、あの人はすぐに元通り”ファインティングマン”さと、みんなは返す。

公私ともに仲のいいロッキングオンの山崎さんが、
肉体は元気だけどなんだか精神的には元気がなかったと、つい先週まで書いていたけれど、
今週の宮本浩次は太陽を見上げて「少し歌わせてくれないか」なんて言ってくれる。
それがどれだけなのかなんて（プロとしての体裁）、たぶん二の次で、
「大丈夫さ、まだ歌えるんだ、金が取れるようになるまで少し待ってな」とばかりに、
入場料まで返してくれる太っ腹。なんて格好がいいんだ。

私が格好いいと思う男は、ああいう人なのだと、しみじみ思う。
ファンが声が聴きたいという欲求に応じてみせながら、
「歌いたいのは俺のわがままだよ」と返してみせる。
いやいや、聴きたい人と歌いたい人がいれば、それは十分に商売になる。
いな、聞くに堪えない歌で入場料取ってる人なんてそれこそ五万といる。
だけど、そういうことはしない人。そして、それに付き合う事務所の理解もすごい。

そんなこんなを考えているうちに夜は明けて、当日の朝になってしまった。
東京に出てしまえば、いろいろな風景に散歩大臣となることもできようが、
電車のなかではエレファントカシマシはとうてい聞けない。
とすれば、何を聞いて行こうか。まったく迷うばかりだ。
２００６年秋のトミが戻ってきた野音もとてもそわそわした一日だったけれど、
今日はあのときにも増して、なんだか落ち落ち寝てもいられない日だ。

神無月の秋の一日。幸せな気持ちの欠片をもらって帰ってこれたらよいと思っている。
あんまりそわそわするから、たぶん、予定より早く着いてしまうだろう。
不審人物で職質されないように注意せねば（されたことは一度もないが）。

コメント 6

おはようございます。
いよいよですね。
私も昨夜から今朝もずっと落ち着きません。
シジフォスさんでも、上の空になってしまうなんて
本当に今日はエレカシのファンの人達にとって特別な日なんだと…

心配なのはお天気です。どうか夕方には綺麗な秋空になることを
祈りたいと思います。

それでは、今日は日比谷で男の中の男、宮本浩次をしっかりと
目に耳に焼きつけてきたいと思います。
シジフォスさんのレポートも、また楽しみにしています。
by PENNPENN (2012-10-14 12:44) 

> PENNPENN さん、コメントおくれてすみません。
ひとつ後の項目にクレーム・コメントがあったので、
どうしたものかと考えながら、言葉を丸めに推敲していて、
時間をとられました。

いや、宮本浩次、男の中の男でした。
あれほど、弱気が弱気に見えないのは、天性でしょうね。
しかもあの美声ですから、女性ファンが多いのもわかります。
客席に男が少なすぎて居づらいくらいです。

お天気は雨が降ってしまいましたね。
でも、何かいつものエレファントカシマシの野音らしいと思いました。
野音は「くもり」と「雨」が統計的に多いんですよ。
2009年の野音を引くまでもなく。
レポートはあまり期待値のハードルをあげないでください。
記憶ちがいを直すのにけっこうかかるんですよ。
本性がいい加減ですからね。

それでは、またコメントください。
by 黒のシジフォス (2012-10-16 00:58) 

はじめまして。
いつも拝見させて頂いています。
この日の記事をよんで、すごく共感し、感動したもので…ちょっと日にちが過ぎてしまいましたが、コメントさせてください。
私もエレカシが、宮本さんが大好きです。でも、なかなか彼の素晴らしさって、人にうまく伝えることが出来なくて…。いつも、この人のよさをどうやったら伝えられるんだろう、って思っていました。
だから、こんなに素敵に宮本さんの魅力をたくさん書いてくださって、『うんうん』って頷きながら、本当に本当に感動して、何度も読みかえしました。
ありがとうございます！
これからも、楽しみしているのて、よろしくお願いします。
by お名前（必須） (2012-10-16 23:34) 

> 匿名[お名前（必須）]さん、はじめまして。
コメントありがとうございます。

寝ぼけ眼と呆けた頭で書いた駄文ですが、
共感していただけて、少し誇らしい気持ちです。
私の文章のばあいは、同姓ですから、
女性視点のようにキレイなところばかりではなくて、
弱みやら欠点やらも含めての格好よさが見えるんです。
それでも普通はそこは見ないことにして褒めちぎる人がいますが、
私の場合は、そこも含めて魅力だと思ってあえて書いてしまいます。
宮本浩次という人が尊敬している作家たちの生きざまが、
そのように、自分をつつみ隠さずさらけ出すタイプが多いからでしょう、
出しているものを見ないふりをして、
全部ピカピカの新品みたいにほめるのは、かえって失礼だと考えています。
40を超えた男には渋みや哀愁があってこそ。
今回の病気の件も、年齢を考えれば不思議ではないし、
マイナスではないということは訴えたかったなと。
あとは、万全ではなくても歌う、歌いたいっていう意気地が、
すごく胸を打つなと思いました。
そういう正直な気持ちを書いた文章です。
女性に共感していただけるのは、男としては不思議な気持ちですが、
同じファンに届いたということが、私もとてもうれしいです。

また、お気軽にお立ち寄り下さい。
たまにコメント欄でもめてるかもしれませんが、
平常は温厚で友好的なので安心してください。
反論や異論が来たときは、本気でぶつかりますが、
言いがかりでないかぎりは、自分の非を認めることも多いです。

最後に、
名前は適当でも大丈夫なので、AでもBでもあるほうが助かります。
次回からはぜひ好きな曲名でいいので名前入れてください。
by 黒のシジフォス (2012-10-17 22:27) 

匿名でコメントしてしまい、すみませんでした。慣れないことをしたもので…ついそのまま投稿してしまい、後から必須だったことに気づき、焦ってました…本当に失礼しました。

宮本さんのかっこよさって、やっぱり自分じゃ、どうにも説明がつかないくらいなのですが、シジフォスさんの言うとおり、不器用さを含めた生き様全てが、男性も女性も惹きつける魅力ですよね。
こんな人、他にいるでしょうか…
本当に素敵な人です。

これからもブログの更新楽しみにしています。
by sana (2012-10-18 17:01) 

> sanaさん 、こんばんは。
（敬称が抜けて慣れ慣れしかったので、再投稿します）
お名前をお知らせいただけて光栄です。

「世界を理解するには、まず名前をつけることから始まるのだ」

…と偉い人ではなく、私が申しております。
それが実名にしろ、匿名にしろ、呼び名がないと不便なので、
見ず知らずの不調法ものに名前を教えるのは嫌でしょうが、
無理をお願いしました。
匿名投稿は、失礼とは思っていませんから。
気にしないでください。

宮本浩次という「漢（おとこ）」は唯一無二でしょうね。
格好わるさも格好いい、みたいな複雑な魅力があります。
ただ、近くにいると大変なこともあるでしょうね。
才人とは奇人の変種で、ときおり常人の理解にそぐわないことがありますからね。
ただ、それは才人なりの理屈が通っているのだとは思います。
女性にとっては魅力的なカリスマだと思います。
（私は同性愛はないので、あこがれは憧憬のみです）

あまり頻繁な更新ではないかもしれませんが、
入らしたときは楽しめるような内容になるよう努力いたします。
お気軽に遊びに入らしてください。
by 黒のシジフォス (2012-10-19 23:24)